歩いて天国に行った ④祖父岳〜鷲羽岳〜三俣
祖父岳奇跡の逆転勝利編。
続きです。
神秘的な夕焼けと月のご来光を見ることもでき、最高に幸せな気分で就寝。
でも翌日には期待していませんでした。雲ノ平山荘の天気予報は曇り時々雨。
というのもこの時、元々は台風になるかもと言われていた低気圧が関東に接近していて、初日も北アルプスは晴れていたけど関東はどん曇りだったとか。台風になる可能性が高ければ山行自体やめようと思っていたけれど、幸いにも当初の予想より発達しない見込みになり、大荒れにならないだけマシだろうというわけで、元々4日間のうち前半2日にしか期待していなかった。
ヤマテン会員なので最新予報をチェックしたかったけれど、残念ながらここは圏外。※ソフバンだけは繋がります@雲ノ平。そんなことある??
翌朝5時前、雲ノ平は重たい藍色の霧につつまれている。予想通り…いや…予想よりはずいぶんマシな感じ。
木道を進むと、霧が流れていく。あれ?もしかして期待できる?
白みはじめた空に月も浮かんでいる
祖父岳を目指す前にテント場の水場で補給。地味に小屋から遠いけれど、すごい豪快な水量の水場です。顔をパシャパシャ洗わせてもらい、もたもたとパッキングし直していると…
雲間から朝焼けが。期待してなかったからかなり嬉しい!
しかしこれから向かう祖父岳はガスの中。
三俣に向かうにあたっては、祖父岳・鷲羽岳を越えるコースと、祖父岳を巻き日本庭園を経由して行く黒部源流コースがあります。鷲羽岳だけ登りたければ黒部源流コースで三俣に至り、ザックをデポして空身で鷲羽岳ピストンも可能。コースタイム的には祖父岳経由の方が短いけど、体力的にはこちらの方が楽なのかも。
でも祖父岳、登りたい。名前が好きだから。
おじいちゃんっ子だったので巻かずに頑張る。祖父岳に差し掛かる頃にはすっかりガスってきて、道は見えるけど景色は……って状態でした。
足元の朝霧に濡れるチングルマの果穂などを見て気を紛らわせながら歩く。
祖父岳は特段登りにくくはないですが地味〜に疲れました。
ちんたら登り、山頂に着くもあたり一面真っ白。まぁ、そんなこともある。この祖父岳山頂でひっさびさに電波が入ったので家族に生存報告を送りながら、開き直って山頂でフリーズドライのパスタで朝ごはんを作り、ビスケットと一緒に食べる。いつ霧に見切りをつけて下ろうかなぁと思いながらぼんやりすること15分ほど…
幸運にも晴れてきました!!
山頂で粘っていた数名の人たちと大喜び!
祖父岳、こんなに展望良かったのか!降りなくて良かった…!!!
流れはじめた霧の作り出すダイナミックな光景。かっこよすぎる…
みるみるうちに視界が開けて青空が。薬師岳、赤牛岳、水晶岳から槍ヶ岳までずらっと見えます。
祖父岳、めちゃくちゃいいじゃないですか!
本当にお城のような槍穂高連峰が雲に浮かぶ。
ガスって諦めムードからの奇跡の快晴…下山したら毎日おばあちゃんに席を譲ろう、と胸に誓いながら先へ進みます。
雲の平より高い視点から眺めるこのあたりの展望は本当に素晴らしくて、どこを見渡しても山々に抱かれ、ああ今私は北アルプスの奥地にいるんだな…という感慨に浸っていました。
こういう写真を撮っておくとGoogle Photoが勝手にいい感じのパノラマ写真にしてくれる。iPhoneカメラのパノラマモードより綺麗なので最近はもっぱらこの方法です。
カメラ買え。
ずーっと見てたい景色に後ろ髪引かれながらも鷲羽岳方面へ。
この辺は確かワリモ北分岐あたりから撮っていた…と思う、たぶん。
ワリモ北分岐は中腹でベンチなどはありませんが休憩しやすい岩が多く、とても展望の良い場所だったのでみなさん休んでいました。歩いてきた稜線が見れるのってやっぱり気持ちいい。
ここからは高天原も見えていたと思います。次は絶対温泉泊まるぞ!
一休みしてワリモ岳を登る。
ワリモ岳、地図で存在は認識しているけど鷲羽岳のことで頭がいっぱいで、鷲羽岳の前座くらいにしか思ってなかった(失礼)んだけど、結構険しい山でびっくり。ちゃんと心構えをして登りましょう…。
山頂付近は思いっきり岩山。かなりトゲトゲしい感じ。雲ノ平でのびのびだらだらした体は久々の高所・岩場のトラバースにギョッとしていた。
とはいえ、しっかりしたロープが張られているので、落ち着いて通過すれば問題なしです。
ちなみに、ここに至る前の箇所で先行者の女性が道迷いしていました。山肌に沿って左手に進むのが正解なところを、崖側の右手に進んでしまっていたのですが、正しい方向にペンキマークはあるものの、確かに目にとまりにくい…。そして右手の道はすごく正解っぽい雰囲気なので、かなり間違いやすそう。そこの写真を撮っとけよという話なんですが、無い。気合いでお気をつけください。間違った方向はたぶん断崖絶壁になっていくのでかなり危険です。
見知らぬ男性が道迷いした方をさりげなくサポートしながら下りていて、素晴らしい思いやりに感銘を受けました。私も人を助けられるような登山者になりたいもんですが、まずは自分の身だな…。
そんなこんなでガスってきちゃったけどなかなかに存在感のあるかっこいいワリモ岳。
なんとかワリモ岳を通過。しかしガスにどんどん取り囲まれていき…
この辺を最後に再び真っ白の世界へ…
うう…
はい、鷲羽岳です。
山行前に、ドローンで鷲羽岳を撮影するNHKの番組をやっていて、そこで見た鷲羽池の美しさに感激。絶対に鷲羽池越しの槍ヶ岳見るぞ!!!!!!って思ってたんですが…鷲羽池がどこにあるのかすら、ついぞわからなかったw
20分近く粘ってみるも、まーったくガスは晴れず。また来いってことだな、と諦めて下山です。
で、この鷲羽岳からの下山が私は本当に辛かった…。ザレ場の急坂が苦手な方は時間に余裕を見ておくことをおすすめします。ザレ場の急坂がクソクソ苦手な私は私はコースタイムを超過しまくりながらへっぴり腰で降り、とても疲れた。どうやったら苦手克服できるのか本当に教えてほしい。バランス感覚?体幹がクソすぎ?
などと考えながらえっちらおっちら下る。
え、下は晴れとる。
ここからガスでーす!って感じのハッキリ境界線。
しかし三俣山荘が目に入りテンションぶち上げです。
絶景やんけ!
おかげで挫けずに下れました。展望、大事。
いよいよ、黒部の山賊の、あの!憧れの!三俣山荘!に到着です。
続きます。
歩いて天国に行った ③雲ノ平の夕焼け
天国・雲ノ平の本領発揮編。
続きです。
山小屋を出ると、ちょうど日没のタイミング。
眩しい夕日が地平線の向こうへ沈んでいく。
雲ノ平って平のくせに案外アップダウンがあって、テント場の方へ進むと雲ノ平をある程度見下すことができる。夕闇に身を浸そうとする雲ノ平に静かに走る木道。不思議なほど人がいない。
目の前には燃え上がる水晶岳
かっこよすぎる…
夢中で水晶岳を見上げつつ、スイス庭園に向かうと、すれ違ったお兄さんが「スイス庭園、すごいですよ、雲海で…」と満たされきった表情で教えてくれた。どんななんだろ?と足を進めて思わず止まってしまった。
あの薬師岳〜立山の滝雲がそのまま流れ込んでスイス庭園から先を満たしたのだ
とんでもない絶景。
夢でも見てるんだろうか?
写真で伝わらないのがつらい。
本当にほんのすぐ足もとまで雲で満たされていて、泳いで立山までいけるんじゃない?とか想像してしまう。
ああ
確かに、どこかに天国があるとしたら、それはこんな眺めなんだろうな。
一生ここにいたかった。
ゆっくり、ゆっくり色を変えていく。呼吸を忘れるほど美しい。
こんな景色なのにスイス庭園ほぼ独り占めで、途中テン泊のお兄さんが来ただけだった。
薬師岳から見た怒涛の雲海とは違い、まるで静かに水面を湛えた湖のよう。
テン泊お兄さんに、これは雲海というか、雲湖ですね!と言おうとしたが、読みがうんこ💩になることに気づいてやめた。
暗くなってきました。名残惜しい…
振り返れば雲ノ平のマジックアワーです。
きれいすぎて腰抜かすかと思った。
ああ、今日ここに来てよかった。本当に。
こっち側にも遠くに雲海ができていて、言葉にできない美しい夕景でした。が、私はiPhoneしか持ってないので撮れない。いいカメラほしい。あわよくばこのブログがヒットしてアフィブログにして収益金でカメラ買いたい。iPhoneで夕陽を撮ろうとすると死ぬほど暗くなるか死ぬほど明るくなるかの二択で、山火事?って感じになる。ここに載せてるのは奇跡的にいいかんじに写ったやつで、残りは山火事です。ありがとうございました。
夕陽色にそよぐチングルマの穂。を撮ろうとして背景がサードインパクトのようになっている一枚。
そんなこんなで山火事写真と格闘していると、すっかり世界は夜になりました。夜の雲ノ平山荘はひときわ美しい。
山小屋の灯。
この後、すっかり夜中になって歯磨きしながら山荘の外をうろうろしていると、そのタイミングでちょうど、ほぼ満月の月が水晶岳方面から昇ってきた。月のご来光!初めて見た…!
少し不気味にすら思うほど、恐ろしく神秘的でした。なんてラッキーなんだろう。
写真はないです。夜景は撮れない。そう、iPhoneならね。
続く
歩いて天国に行った ②薬師沢〜雲ノ平
「雲ノ平 急登 つらい」でググりまくっている人(私)への情報提供編。
続きです。
2日目、薬師岳山頂に別れを告げ、また太郎兵衛平に到着。あっという間に遠くになる薬師岳。上品で堂々たるその姿、やっぱりかっこいい。
ヨツバヒヨドリ?がまだ咲き残っていますね。本日も快晴なり。
そういえば、どの地点からかわからないけどドコモ回線でも薬師沢付近で気付いた時には圏外で、雲ノ平一帯を抜けるまでずっと圏外だったので、太郎平出たあたりで翌日まで連絡取れない旨、家族などに一報入れておくのが吉です。次に電波入ったのは確か祖父岳山頂だった。祖母岳じゃ繋がんない。あとなぜか知らんが雲ノ平はソフトバンクだけ電波が入る。弱いながらも入ってた。ドコモユーザー、屈辱の体験。
まずは薬師沢を目指して歩きます。
しばらくは木道で、気分はもう雲ノ平。草紅葉が美しく始まっており、ご機嫌なトレッキングが続く。山はすっかりもう秋だな〜
…っていうウキウキだけならいいんだけど、私は分かってるんですよ。薬師沢から雲ノ平に出るまでの延々と続く湿った岩場の直登2時間が無茶苦茶辛いらしいという前評判を…
山行前からずっとこの急登に怯えて感想をググり倒し、散々地獄のイメトレを重ねてきた。天国に行く前には地獄を経験せねばならない。人生。
でも薬師沢まではウキウキトレイルだから…。沢まで降った分は当然また登らねばならないという鉄則をいったん脳内から排除して歩きます。
しばらく進むと薬師沢の手前にカベッケが原があります。そう、『黒部の山賊』でカッパが出るという、あのカベッケが原!聖地巡りだよ聖地巡り。カッパ絶対見つけたると意気込んでキョロキョロしながら歩くと、視界の端で黒い影がサッッと動く!
カッパ???
えっ!
オコジョ!!!!!!!
かわいいーーー!!!!
こっちに興味津々の様子で、木道の下を出たり入ったりしながら何こいつ?みたいな顔で何度も覗き込んでくる。逃げないのね!おててかわいいねー!!
はじめての野生のオコジョとの対面で大興奮。たまんねー!その後すれ違う人々に満面の笑みでオコジョ情報を伝達する単独行女。みんなもオコジョに会えてるといいな。
オコジョとの出会いでHPがフル回復し元気に薬師沢小屋に到着。早めのお昼ごはんは富山のSAで購入したますの寿司。
これはオススメ山飯ランキングを塗り替えるかもわからんね!
本場のますの寿司は基本的に常温保存前提で、3日くらいは余裕で日持ちしました。なんと言っても山でお寿司が食べられる嬉しさよ。テンション上がる。
特にこの商品は4種類小分けになっていて、飽きもこないし、お腹空くタイミングでちまちま食べられてとても良かった。夜行バスで折立に行くなら多分最後に寄るSAで売ってんじゃないかな。
薬師沢小屋のおいしい沢水(無料!)をありがたく補給して重たくなったザックとともに吊橋を渡ります。
橋はしっかりした作りなので見た目ほど怖くないけど、渡った先は足場が狭く、すぐに長めの下りハシゴになるので、対岸の人とちゃんとコミュニケーション取らないと危ないかもしれん。
実に綺麗な沢です。足を浸してのんびりしたくなっちゃうが…
ここから始まります。雲ノ平への急登。
急坂ガンバレ!はい。がんばります。
話変わるけど高天原の♨︎フォント最高かわいいな。今回は時間なかったけど、次は高天原でのんびり温泉に浸かりたい。ワリモ岳あたりから眺めた高天原、実に別天地のような美しい立地でした。
話変えても道は変わってくれないので直登します。嫌だな〜怖いな〜
ひたすらこんな道が続くわけですが…
結論から言うと、そんなに辛くなかった。
楽勝といえば嘘になるけど、個人的には初日の薬師峠〜薬師平のほうが断然しんどかった…。確かに展望なくて飽きやすいものの、苔むした感じが割と自分好みの道だったのと、ずっと樹林帯なおかげで直射日光がなく涼しかったのが功を奏したと思われる。薬師は晴天バリバリ日光オラオラな感じで干されるかと思った。まあ個人の好みの問題ですがこんな人もいますよということで。とはいえ、ジメッとしているため、かなり滑りやすい岩場なので神経使います。疲れている時や下山時には使いたくない道だなあ。
コースタイム2時間10分のところ1.5時間くらいで登り終え、木道末端に出た。山と高原地図の「木道末端」、これここから雲ノ平なんだろうな♡と思うじゃないですか、木道だし。実は全然まだ(私の思う雲ノ平では)ない。一瞬だけ木道が敷かれて、また再びほんの少しだけど樹林帯岩場が当時するので、ここまで苦でなくても若干心折れる。すれ違う人々が「もうすぐだからね!!」と超励ましてくれました。ありがとう。
もう一踏ん張りするとようやく!
雲ノ平!
ついに着いてしまった。
人は死ななくても歩けば天国へ行けるのです。
あのお姉さんもここを歩いたのかな。
最初に出迎えてくれるのはアラスカ庭園、それから奥日本庭園。なるほど本当に庭園のように岩やハイマツの配された美しい場所です。
険しい山々の中にあって、標高2500mの高みにこの広々とした台地。昔はここが木道すらない原野だったのか…
何も知らず北アルプス奥地に突然これが出てきたら言葉を失うだろうな。
聳え立つ山々に抱かれた雲ノ平のなかでも、水晶岳の圧倒的な存在感。
水晶かっこよすぎワロタ
今回一番登りたい欲が高まったのは水晶岳でした。次は絶対裏銀座ルートで登ろう…
雲ノ平山荘にチェックインし、一服。
綺麗すぎか?
2010年に建て替えされたばかりらしいけど、そういうのとはまた別次元に綺麗でした…。自由が丘のカフェで〜すとか言って載せても疑われなさそう。
時間はまだたっぷりあるのでお散歩します。
ここから水晶岳かっこよすぎワロタタイム
この木道がこのままずっと水晶岳まで続いているんじゃないかなと思ってしまう。
奥は赤牛岳。ほんとに赤いね。
真っ青な空と黄金色の草紅葉が時折きらきらと漣を立てる。なんて綺麗なんだろう。
なるほどここは天国かもしれない。
この地点から左を向くとスイス庭園があり、
ここから見渡せるのは今朝までいた薬師岳〜立山への稜線。なんと、また滝雲になってる!!
昨日と似た天候だったようで、同じ雲海が流れ込む様を別アングルから観れるという超ラッキー。これは嬉しすぎる。こっち側から見るとこんなダイナミックな現象だったんだなあ。
高低差がまさに滝雲。ああ、本当にかっこいい…
雲ノ平で一番気に入ったのがこのスイス庭園。この後も出てきますが暇さえあればスイス庭園でボーッとしていました。
雲ノ平、チングルマの群生っぷりが凄まじい。
そよ風に揺れるチングルマの綿毛が溶岩との対比を際立てて、天国感をいっそう高めていました。
これ、お花畑シーズンに来たら圧巻だろうな…。
雲ノ平山荘、水晶岳をバックに。
雲ノ平の時間はのんびり流れる。
夕食にはここの恒例らしい石狩鍋をいただきました。登山客みんなで鍋を分け合うスタイル、楽しくてよいな〜!とても美味しかった。
お腹を満たしたら雲ノ平の夕景が待っている。ご飯前にそそくさ準備しておいたアタックザックを掴んでお散歩へ。
続きます。
歩いて天国に行った ①折立〜薬師岳
2019年9月、折立〜新穂高温泉を縦走して雲ノ平に行きました。
(3日目) 雲ノ平山荘→祖父岳→鷲羽岳→三俣蓮華岳→双六小屋
(4日目)双六小屋→鏡平→新穂高温泉
総歩行距離67kmくらい、累積登り標高差6000mくらい。
このコースに行こうと思った理由はいくつかある。
小林百合子さんの『山小屋の灯』がとても好きで、以来、この本に出てくる山小屋を訪ねるのが山登りの目的の1つになった。
本の中盤に出てくるのが雲ノ平山荘で、章はこんな書き出しで始まる。
北アルプスの奥の奥に天国のような場所がある。名を雲ノ平という。
これを読んで雲ノ平を切り開いたのが伊藤正一だと知り、あの『黒部の山賊』を夢中で読んだ。
未開の原野だった雲ノ平、黒部への憧れが募りまくった。
ちなみに『黒部の山賊』、名前は知っていても勝手に古臭い難しい本だろうと思って読んでいなかったのだけど、全然そんなことはなくて、軽快な文体でメチャクチャ面白いのでぜひ読んでから黒部源流の山域を訪れてみてほしいです。山の岩場を爆速で移動する人たちなのに、久々に下界におりた時アスファルトの道が足がかりがなく滑りそうに見えて恐い、って話とかめちゃくちゃ笑ってしまった。
という、本の影響が理由の1つ。
もう一つ理由があって、この2冊を読むよりも前、残雪の燕岳に登った時のこと。
見知らぬお姉さんとタクシーを相乗り割り勘させて頂き、登山口まで少しおしゃべりしていた。
上品で控えめなそのお姉さんは見た目によらずなかなか大胆なガチ勢で、山にハマりすぎて長野へ移住したらしい。色々と話を聞かせていただいたのだけど、一番好きな山はどこですか?と聞いた時の答えが「雲ノ平」。
「天国みたいなところですよ」
遠いですけどね、と、なんだかデレデレしながら答えるお姉さんを見て、心の底から、いいなあと思った。
天国か。
2日歩かないとたどり着けない天国。人を移住に駆り立てるほどの場所が、この山々の向こうにひっそりとあるのかと思うと、憧れずにはいられなかった。
そんな経緯があり、4連休を手に入れた時の行き先はわりとすんなり決定した。
折立行きの夜行バスが取れたので薬師岳にも登ってから向かうことに。
この山域への憧れをこじらせていたため、山友達にも直前まで内緒でソロで出発した。(登山届と家族への連絡はもちろんしてます)
雲一つないド快晴の下、折立から太郎坂を登ります。
この日は富山駅からのバスが満員で朝に乗れず、昼にようやく折立着いて太郎平小屋泊せざるを得なかった人も多かったそうです。夜行バスでよかった…。折立行きは割と残ってることが多い気がするし、おすすめします。
てくてく登ると折立から3時間ほどで太郎兵衛平に到着。
太郎坂で抜かされまくりましたが、それでもコースタイム5時間のところ0.6倍だったので、わりと巻けるんじゃなかろうか?
まだ朝10時くらいなのでおやつだけ食べて薬師岳へ向かいます。
低血圧なんでこの辺からようやく目が覚めてきました。
太郎兵衛平から先は薬師岳が目の前に。
なかなか素敵なところです。まったり木道歩きは楽しいねえ
などと余裕をかましていたのは薬師峠まで。
天気良すぎてクソ暑く、日当たり良好な薬師平までのゴーロが鬼しんどい…。ググってもこの区間をつらいと言っている人があまりいなかったので、インターネットの海に有益な情報として残しておきたい。この区間は、つらい。
しかしツラさに応えて余りあるご褒美、薬師岳!なんて美しい山容!
薬師岳山荘。最高のロケーションである。
12時頃到着したので、チェックイン後アタックザックにつめかえて山頂を目指します…が、徐々に霧に包まれていく薬師岳。えー嘘だろ!!やめろ!!
しょんぼりしていたので霧の写真は無いですが、途中ガスの中ですれ違ったお兄さんたちが「上は晴れてますから!」と励ましてくれる。半信半疑でとぼとぼ歩くと…
ほんとに雲の上に出られた瞬間。テンション爆上がりターボで一気に山頂へ。
おほほ…絶景ではないか
劔・立山から後立山連峰、槍穂高連峰までが全部見えます。2926mからの飛騨山脈の雄大すぎる景色。明日向かう雲ノ平方面もばっちり確認できました。
最高のコンディションですよ
大迫力で注ぎ込む滝雲。滝雲大好き。
剱・立山は天空の城状態。
時折さざ波のように起き上がりながら富山湾にまで続く雲海、あまりに素晴らしい眺め。
結局3時間以上山頂でのんびりしていました。今思えば北薬師あたりまで歩いてみても良かったな。この上ない贅沢な時間で、めちゃくちゃ日焼けしました。
薬師岳山荘に戻り、美味しい夕食を頂いたあと、日没前に中腹まで登り返してみるも一面霧に包まれてしまい退散。北アルプス西端からの夕景は間違いなく美しいはずなので、また残雪があるころにでも薬師岳再チャレンジしたいなあ…。
この日は連休初日で、予約時に「混んでますよ」と言われ覚悟してましたが、1人1枚の布団で寝られ快適でした。トイレも綺麗だったし、ぜひまた泊まりたい山小屋のひとつ。同室の皆さんもいい人ばかりでした。お世話になりました。
朝ごはんは5〜7時の好きなタイミングで食べられるとのことだったので、朝食前に再度薬師岳山頂ピストンするっきゃない。5時半日の出なんで、4時くらいから登るぞ〜って思って5時近くまで健やかに爆睡し、慌てて水と玄米クリームブランを詰め込み急いで登る。みんなどうやって朝起きてんの?
というわけで早朝の薬師岳です。
本当にやうやう白くなりゆく山際が少しあかりて、
紫だちたる雲の細くたなびきたる早朝。清少納言のセンスはんぱないな。秋ですけど
前日が中秋の名月だったんですよね。まだぎりぎり月の世界の、なんとも言えず美しい仄かな色彩。
本日も快晴なり。
ギリギリ日の出に間に合いました
金作谷カールに朝日がひたひたと注がれていく。
おはようございます。
富山の街には消え入る寸前のお月様の下に影薬師が静かに聳えていた。
大好きだ薬師岳、絶対また来ます。
薬師岳がよすぎてこのまま帰ってもいいかなとすら思ったけど、2日目はいよいよ雲ノ平へ。続きます。