にっき

山登りの合間に人生をしている

歩いて天国に行った ①折立〜薬師岳

2019年9月、折立〜新穂高温泉を縦走して雲ノ平に行きました。

 

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(1日目) 折立→太郎平→薬師岳薬師岳山荘

(2日目) 薬師岳山荘→薬師岳→薬師沢→雲ノ平山荘

(3日目) 雲ノ平山荘→祖父岳→鷲羽岳→三俣蓮華岳→双六小屋

(4日目)双六小屋→鏡平→新穂高温泉

 

総歩行距離67kmくらい、累積登り標高差6000mくらい。

 

このコースに行こうと思った理由はいくつかある。

小林百合子さんの『山小屋の灯』がとても好きで、以来、この本に出てくる山小屋を訪ねるのが山登りの目的の1つになった。

 

山小屋の灯

山小屋の灯

 

 

本の中盤に出てくるのが雲ノ平山荘で、章はこんな書き出しで始まる。

北アルプスの奥の奥に天国のような場所がある。名を雲ノ平という。

 

これを読んで雲ノ平を切り開いたのが伊藤正一だと知り、あの『黒部の山賊』を夢中で読んだ。

 

定本 黒部の山賊 アルプスの怪

定本 黒部の山賊 アルプスの怪

 

 

未開の原野だった雲ノ平、黒部への憧れが募りまくった。

ちなみに『黒部の山賊』、名前は知っていても勝手に古臭い難しい本だろうと思って読んでいなかったのだけど、全然そんなことはなくて、軽快な文体でメチャクチャ面白いのでぜひ読んでから黒部源流の山域を訪れてみてほしいです。山の岩場を爆速で移動する人たちなのに、久々に下界におりた時アスファルトの道が足がかりがなく滑りそうに見えて恐い、って話とかめちゃくちゃ笑ってしまった。

 

という、本の影響が理由の1つ。

もう一つ理由があって、この2冊を読むよりも前、残雪の燕岳に登った時のこと。

 

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見知らぬお姉さんとタクシーを相乗り割り勘させて頂き、登山口まで少しおしゃべりしていた。

上品で控えめなそのお姉さんは見た目によらずなかなか大胆なガチ勢で、山にハマりすぎて長野へ移住したらしい。色々と話を聞かせていただいたのだけど、一番好きな山はどこですか?と聞いた時の答えが「雲ノ平」。

 

「天国みたいなところですよ」

遠いですけどね、と、なんだかデレデレしながら答えるお姉さんを見て、心の底から、いいなあと思った。

天国か。

2日歩かないとたどり着けない天国。人を移住に駆り立てるほどの場所が、この山々の向こうにひっそりとあるのかと思うと、憧れずにはいられなかった。

 

そんな経緯があり、4連休を手に入れた時の行き先はわりとすんなり決定した。

折立行きの夜行バスが取れたので薬師岳にも登ってから向かうことに。

この山域への憧れをこじらせていたため、山友達にも直前まで内緒でソロで出発した。(登山届と家族への連絡はもちろんしてます)

 

 

雲一つないド快晴の下、折立から太郎坂を登ります。

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この日は富山駅からのバスが満員で朝に乗れず、昼にようやく折立着いて太郎平小屋泊せざるを得なかった人も多かったそうです。夜行バスでよかった…。折立行きは割と残ってることが多い気がするし、おすすめします。

 

てくてく登ると折立から3時間ほどで太郎兵衛平に到着。

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太郎坂で抜かされまくりましたが、それでもコースタイム5時間のところ0.6倍だったので、わりと巻けるんじゃなかろうか?

まだ朝10時くらいなのでおやつだけ食べて薬師岳へ向かいます。

低血圧なんでこの辺からようやく目が覚めてきました。

 

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太郎兵衛平から先は薬師岳が目の前に。


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なかなか素敵なところです。まったり木道歩きは楽しいねえ


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などと余裕をかましていたのは薬師峠まで。

天気良すぎてクソ暑く、日当たり良好な薬師平までのゴーロが鬼しんどい…。ググってもこの区間をつらいと言っている人があまりいなかったので、インターネットの海に有益な情報として残しておきたい。この区間は、つらい。


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しかしツラさに応えて余りあるご褒美、薬師岳!なんて美しい山容!

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薬師岳山荘。最高のロケーションである。

12時頃到着したので、チェックイン後アタックザックにつめかえて山頂を目指します…が、徐々に霧に包まれていく薬師岳。えー嘘だろ!!やめろ!!

しょんぼりしていたので霧の写真は無いですが、途中ガスの中ですれ違ったお兄さんたちが「上は晴れてますから!」と励ましてくれる。半信半疑でとぼとぼ歩くと…

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ほんとに雲の上に出られた瞬間。テンション爆上がりターボで一気に山頂へ。

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おほほ…絶景ではないか
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劔・立山から後立山連峰、槍穂高連峰までが全部見えます。2926mからの飛騨山脈雄大すぎる景色。明日向かう雲ノ平方面もばっちり確認できました。
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最高のコンディションですよ
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大迫力で注ぎ込む滝雲。滝雲大好き。
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剱・立山は天空の城状態。

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時折さざ波のように起き上がりながら富山湾にまで続く雲海、あまりに素晴らしい眺め。

結局3時間以上山頂でのんびりしていました。今思えば北薬師あたりまで歩いてみても良かったな。この上ない贅沢な時間で、めちゃくちゃ日焼けしました。

 

薬師岳山荘に戻り、美味しい夕食を頂いたあと、日没前に中腹まで登り返してみるも一面霧に包まれてしまい退散。北アルプス西端からの夕景は間違いなく美しいはずなので、また残雪があるころにでも薬師岳再チャレンジしたいなあ…。

 

この日は連休初日で、予約時に「混んでますよ」と言われ覚悟してましたが、1人1枚の布団で寝られ快適でした。トイレも綺麗だったし、ぜひまた泊まりたい山小屋のひとつ。同室の皆さんもいい人ばかりでした。お世話になりました。

 

朝ごはんは5〜7時の好きなタイミングで食べられるとのことだったので、朝食前に再度薬師岳山頂ピストンするっきゃない。5時半日の出なんで、4時くらいから登るぞ〜って思って5時近くまで健やかに爆睡し、慌てて水と玄米クリームブランを詰め込み急いで登る。みんなどうやって朝起きてんの?

 

というわけで早朝の薬師岳です。

本当にやうやう白くなりゆく山際が少しあかりて、

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紫だちたる雲の細くたなびきたる早朝。清少納言のセンスはんぱないな。秋ですけど
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前日が中秋の名月だったんですよね。まだぎりぎり月の世界の、なんとも言えず美しい仄かな色彩。
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本日も快晴なり。
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ギリギリ日の出に間に合いました
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金作谷カールに朝日がひたひたと注がれていく。
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おはようございます。

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富山の街には消え入る寸前のお月様の下に影薬師が静かに聳えていた。f:id:eie0x0:20190921144737j:image

大好きだ薬師岳、絶対また来ます。
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薬師岳がよすぎてこのまま帰ってもいいかなとすら思ったけど、2日目はいよいよ雲ノ平へ。続きます。

 

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